ごきげんようチャンネル



春ごとの花に心をなぐさめて 六十(むそぢ)あまりの年を経にける


西行

<< 西郷隆盛の「敬天愛人」 意志と現実の矛盾を心内で解消した四文字 | main | 英語は名詞にはじまる >>
定住革命という人類史のポイント 「交通」概念の洗練を

西田正規『人類史のなかの定住革命』講談社学術文庫、2007年(原本1986年)


「高等霊長類の出現以来、数千万年も続いた遊動生活の伝統に比べ、定住生活の経験はわずか一万年にすぎない。」53頁。


 

じつは、定住は問題の多い「生計戦略」である。

定住すると、環境汚染がおこりやすく、死者(墓地)と共存せねばならず、食料や資材の運搬が煩瑣になり、社会的緊張も鬱積しやすい。24ー34頁。

 

さまざまな社会問題は、定住したがゆえに発生したという側面がある。遊動生活が定住生活よりも劣ったものだというのは、いまの人間の立場からみた偏見にすぎないのだ。

 

では、なぜ人類は定住したのか?

著者は、定置漁具を使うため、越冬食料の貯蔵のため、といった理由をあげるが、いちばん大きい理由は、1万年前の気候変動(温暖化→森林拡大)ないし環境破壊によって遊動生活が困難になったことだという。52頁。
 

さて、定住すると、社会システム、交通、儀礼、宗教、工芸、芸能などが複雑に発達する。

これを人は「社会の発達」と呼ぶが、実は定住化にともなう刺激の減少を補うために、いろいろなことを行って心理的空間を拡大・複雑化し、大脳を活性化させているという側面がある。33頁。

たとえば縄文時代の装身具や土器にみられる過剰な模様。そして大規模な遺跡。これらは空間にひずみをもたらし、単調さをなくして、心理的エネルギーを消費するための工夫である。さかんに行われたであろう儀礼は、「心理的空間移動」すなわち遊動生活への郷愁の変形である。33頁。

 

人類史上の大事件とされる農耕も、じつは定住がもたらした帰結であった。

すなわち人間が定住すれば、村の近くの森は薪や建築材のために伐採される。そこに開けた明るい場所には、陽生植物が繁茂する。クリ、クルミ、ハシバミ、コムギ、オオムギ、アーモンド、フキ、ワラビ、ウド、ミツバなどである。これらはすべて食料となる。定住によって、人間は自動的に食料となる植物に囲まれていくのである。

 

これは、

「生態学的に表現すれば [人間と自然の] 共生関係であり、人文学的にいえば栽培や農耕にほかならない。食料生産の出現は、火を使う人間が定住したことによって、ほぼ自動的に派生した、意外で、しかも人類史上、きわめて重要な現象であった。」51頁。

 

農耕も都市化も、そして国家でさえも、定住革命にともなう付随的現象にすぎないのかもしれない。

 

著者は慎重に断定を避けているが、われわれはいまだに「定住革命」の最中にいるのであって、その視点からみれば、多くの社会問題が納得できるというのが、この本の主張である。52ー53頁。

 

 

...

 


定住とは逆に、部族や民族、あるいは家族・個人単位での移動(強制移住や奴隷売買をふくむ)もまた、人類史に貫徹する現象であった。

 

人間の移動の問題を、トランス・ヒストリー(人類普遍史)の立場からどう理解するか。

 

移動は、自分自身を運搬する労働である。自己運搬労働が減少して定住したとき、あるいは大規模に行われたとき、あるいは移動手段の発達で長距離移動が可能になったとき、それは歴史にどういう影響を与えるか。人間だけでなく、物資の移動がもつ意味はなにか。

 

史的唯物論でいえば、これは生産物(人間をふくむ)の「交通」の問題ということになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 





 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 18:38 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









http://soundsteps.jugem.jp/trackback/680
#誰が書いてるの?
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< May 2018 >>
-->
#新しい記事
#過去の記事
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 高杉 忠明
#著書/共著
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 田代 泰子, 高杉 忠明
#コメント
#トラックバック