ごきげんようチャンネル


みにつもる ことばのつみも あらはれて こころすみぬる 三重(みかさね)のたき

   『山家集』1118

<< 社会的時間の原理 | main | 素朴概念から科学概念へ それは飛躍である おわり >>
素朴概念から科学概念へ それは飛躍である その1

力学の教え方について、面白い論文があった。

 

 

 

新田英雄(東京学芸大・教育学部)「素朴概念の分類」(『物理教育』2012年)

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/60/1/60_KJ00007943563/_pdf/-char/ja

 

 

 

生徒が抱きやすい「素朴概念」つまり物理の正確な理解をさまたげる日常的な「思い込み」を分類し、一枚の表にまとめた論文。

 

物理が苦手だった私からみて、とくに身につまされる? 素朴概念は、次の二つ。

 

 

「物体の運動を予測するとき、その状況に近い自分の経験をもとに運動を考察する」という傾向。

 

たしかに私も、狭い「自分の経験」や五感に固執して、物理学の概念を拒否していた。

 

いま考えれば、日常的な感覚を超える概念をうちたてたからこそ、物理が学問になったのだ。ふつうの経験で物体の運動が正確に予測できるなら、専門分野としての物理学はいらない。

 

高校までの科学は、五感を超える概念をうちたててきた人間の営為への敬意と、そうした科学的思考のマナーを身につけることが、主要目標になるのではないか。

 

 

「離れて働く力は理解しがたい」という素朴概念。

 

一般人には引力が納得しにくいことを言っているのだが、この素朴概念は、<性質の異なる精神と物質が、互いに関係しあうのはなぜか>という古くからの哲学の問題(心身問題)と、構造が同じである。引力も心身問題も、「離れて働く力」の正体を探っているからだ。

 

物理学では、「引力」という概念で「離れて働く力」を特定したし、正確に計算までできるが、哲学では、精神と物質のあいだで「離れて働く力」の正体はまだ認知されていない。

 

心身問題への答えは、認識力や行動力のような、人間なら誰もがもつ「人間力」である。引力に似て、それは精神と物質を関連づける「力」である。人間力は、養成に必要な時間の長さや、能力を発揮している時間の長さを基準にして、社会的に測ることもできる。

 

もし人が、「人間力」という心身問題への答えに納得しないとすれば、その原因はやはり素朴概念である。離れているものどうしが力を媒介にして関係しあう「引力」という科学概念が、素朴概念にとっては納得しにくいのと同じ構図である。

 

なお、最近の素粒子論では、引力の実体がさらに議論されているらしい。「人間力」についても、その内実がさらに分類・探究されるべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) | - | - |
人が生(なま)の感覚から知ることができることは、
世界の実態ではありません。
だから、自分の身になって考えるとか、
自分の痛みとして引き受ける、という考え方には、
たやすく限界がある、ということを
小学生で掛け算を習ったときにわかりました。

掛け算は足し算を便利にしたものでなく、
まったく別の思想から生まれています。

速さに時間を掛けたら距離になってしまいます。
ふたつの異質のものを掛け合わせたら、
もう一つの異質なものが出てきたわけです。

足し算は様態を変えることがありませんが、
掛け算は様態を変えます。
いわば、足し算は「実感」の式ですが、掛け算は違います。
掛け算の発見によって、人間は抽象へと離陸したわけです。

人間の感覚はほかの動物と同じように、
自分が個体として環境に適応していく必要性として
発達してきたもので、世界の実態を知るために
発達してきたのではありません。
同様に、理性も大部分は環境に適応する能力の一環として
発達してきました。

ですから、等身大の私などいくら駆使してみても、
環境適応の次元でしか世界を把握することはできません。

本当の世界の実態を知りたければ、
<私>の次元をいったん切り捨てて、
世界の法則や掟を知ることに喜びを見出す
ということになります。
| 受験生 | 2019/01/06 9:38 PM |









http://soundsteps.jugem.jp/trackback/4933
#誰が書いてるの?
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< January 2019 >>
-->
#新しい記事
#過去の記事
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 高杉 忠明
#著書/共著
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 田代 泰子, 高杉 忠明
#コメント
#トラックバック