ごきげんようチャンネル


みにつもる ことばのつみも あらはれて こころすみぬる 三重(みかさね)のたき

   『山家集』1118

<< 認識と概念の相互浸透を保証する形式としての意識諸形態  | main | スマホの時刻表が、人と電車の関係を変えた >>
歴史に完全な勝利はない 伊東潤『走狗』から

伊東潤『走狗』中央公論新社、2016年。

 

「革命家の西郷隆盛、政治家の大久保利通、そして実務家の川路利良(かわじ・としよし)という鹿児島生まれの三人によって、時代は大きく転回していくことになる。」385頁

 

このうち、薩摩藩の下級武士から身を起こし、武功と忠実ぶりで取り立てられ、明治新政府で初代大警視となった川路利良の半生を軸に、上司の走狗(そうく。使い走り)となり、国家の走狗となって生きた男たちの姿を描いている。

 

日本の歴史では、古代律令制、江戸幕藩体制、明治維新、そして戦後改革が四大改革だが、わけても明治維新は、日本列島における前近代と近代を分ける分水嶺となった。

 

そういう時代には、どんな権力者といえども、何重もの仕掛けにおとしいれられる危険にさらされる。ある人物との出会いが、何年もあとで意味をなしてくる。緊密に構想され、小説らしい細部の描写もきちんと書き込まれた力作。

 

後半では、大久保と川路による西郷抹殺という西南戦争の一側面が描かれ、その結果、大久保と川路がかえって孤立していくところが印象に残る。

 

 

「その死の直後から、国民大衆の間では、西郷に対する同情と愛惜の声がわき上がっていた。明治天皇は、「朕は西郷を殺せとは言わなかった」と言って機嫌を損ね、...明治十年末には、宮中において西郷の追悼歌会を行うほど、現政権への反発をあらわにした。...

 

西南戦争のきっかけが明らかになるにつれ、大久保たちへの風当たりが、徐々に強くなってきた。... 両軍あわせて約一万三千の死者を出した責任を誰が負うのかといった議論までされはじめた。

 

三条や岩倉といった公家出身者や、山縣や伊藤ら他藩出身者はもちろん、...同郷の軍人文官の有力者も、大久保と川路に対し、親しく口を利くことさえなくなっていった。...

 

さらに大久保らは財政難の中で西南戦争を起こし、四千二百万円という多額の国費を使ってしまった。これは明治十年の国家歳入の約八割にあたり、国家財政は破綻寸前にまでなっていた。

 

独裁体制確立のために大久保が払った代償は、あまりに大きかった。」421ー422頁

 

 

 

歴史に完全な勝利というものはないようだ。

 

苦いリアリズムが味わえる作品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 07:20 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









http://soundsteps.jugem.jp/trackback/4919
#誰が書いてるの?
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< January 2019 >>
-->
#新しい記事
#過去の記事
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 高杉 忠明
#著書/共著
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 田代 泰子, 高杉 忠明
#コメント
#トラックバック