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   『山家集』1118

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「生産」から生活へ 人間が人間を生産する おわり

マルクスが「生産 Produktion」というとき、<人間の生をつくる>という広い意味が視野に入っていた。

 

だが人は「生産」を、<物質的財貨をつくること>という狭い意味に解釈しがちであり、そのことが、いわゆる「史的唯物論の定式」の読み方にも影響してきた。

 

そうなったのも、ある意味で無理もないことであった。ここでとりあげたマルクスのメモ「経済学批判序説」(執筆1857年)も、公刊された『経済学批判』(発行1859年)も、「経済学」と題されており、それだけでも、ここでいう生産とは物質的財貨の生産のことであろうという読者の予断を誘う。

 

じっさい、のちの『資本論』(初版1867年)での「生産」という語は、たいてい物質的財貨あるいは商品の生産という意味で使われている。だが、『資本論』では、人間の労働力も商品に含まれる。つまり、人間の労働力もまた「生産」されるし、労働力の発揮たる労働によって人間の生活も「生産」される。このように、労働力を含めた広義の「生産」概念が、『資本論』にも埋め込まれている。

 

マルクスの語法では、肉体をもった人間個々人や、人間がつくる組織や観念も「生産」の対象に含まれうる。また、「生産」には、それに不可欠な交通(人間をふくむ生産物の移動)も含まれうる。

 

そして、マルクスのいう「生産諸関係」(「定式」には、岩波文庫版の訳文で五回登場する)とは、人間が社会をつくり、社会が人間をつくるさいの人間どうしの関係であり、現存の「生産諸関係」と、人間の発展してやまない社会形成力たる「生産諸力」が「衝突」する。その結果、新しい「生産諸関係」が生まれる。これが「定式」の基本構図ではないだろうか。

 

マルクスの歴史観は、<物質的財貨と、人間の身体をふくむ物質的実体の生産・交通・消費に基礎をおき、観念をもち組織をつくって活動する人間どうしの社会関係の総体とその変化>といった総合的なものである。

 

つまり、人間の歴史の実相・実体・本質は、「生産」という言葉をつかうなら、生活の生産・生産力・生産関係(人間の生活・人間とその社会を生産する力・人間どうしの関係)にあるということである。

 

生活の生産・生産力・生産関係。

 

これらはたんに経済学の概念というより、広く歴史学が活用すべき基礎概念である。歴史認識とは、人間の「生 Leben」の実相たる「生活 Leben」に迫ることである。

 

われわれの課題は、こうしたマルクスの思考を参考にしつつ、われわれ自身の歴史理論を手に入れることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おわり)

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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