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   『山家集』1118

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「生命」はどこにある? 吉川弘之氏の発言について

「私は、おそらく生命科学は、将来が暗いのだと思います。... 遺伝子はただの化学物質で... 複雑な生命活動を可能にしている生物特有の何か... が発見されるということは、おそらく、もうないと思います。」

 

これは、日本科学界の重鎮・吉川弘之氏の発言である。

 

吉川氏は1933年生まれ。東大総長、放送大学長、日本学術会議会長などをつとめた人で、専門は、一般設計学という工学分野。(上の引用は、『吉川弘之対談集 科学と社会の対話 研究最前線で活躍する8人と考える』丸善出版、2017年3月、45頁から。吉川氏の経歴は同書奥書による)

 

吉川氏の発言の主旨は、生命科学の発達によって、生命に特有の「何か」が発見されるかとも思ったが、どうやらたんなる化学反応、あるいは物理現象しか解明できそうにない、ということではないかと思う。

 

吉川氏は、同書で次のようにも述べている。

 

「私の研究している工学について言うと、なぜ人間はこのような [気候変動を引き起こすような] 人工物をつくるのかという疑問があって、それについては手がかりすらなく、何もわかりません。」46頁

 

この問題提起に対して、対談相手の村山斉氏(カリフォルニア大学バークレー校、物理学)は、「ニーズがあるというのが理由では?」と応じている。これに対して吉川氏は、こう答えている。

 

「もちろんそうですが、その『ニーズ』とは何かという問いに対して、科学的に記述できないんです。『役割』というのも、物体でもなければ精神でもない。やはり科学では説明できません。」47頁

 

 

...

 

 

「生命」とか「ニーズ」とか「役割」が「科学的に説明できない」という吉川氏の告白をどうみたらいいか。

 

人間にとって、この世界は意識と物質がペアとなった運動である。物質が物質にとって実在するように、意識は意識にとって実在する。意識なきものにとって、意識は実在しない。

 

物質が意識をもたないことについて、マルクスはこう書いている。

 

 

「これまでのところ、交換価値を真珠やダイヤモンドのなかに発見した化学者はひとりもいない。」(マルクス『資本論』初版、江夏訳、322頁。第二版では岡崎訳154頁)

 

 

遺伝子じたいは、物質どうしが関係しあっているだけである。遺伝子は生命の基盤であるが、遺伝子をいくら化学的・物理的に解明しても、そこに生命や意識が「発見」できるわけではない。

 

「ただの化学物質」(吉川氏)としての遺伝子にとって、「生命」は実在しないのである。

 

人間の認識力が、遺伝子に生命や意識の実在を見てとる。

 

 

...

 

 

「生命」とか「ニーズ」とか「役割」は、人間にとって音声・文字による表象であり、概念であり、その表現態が放つ意味である。これらの表象、概念、表現態、意味は、意識をもつ人間にとって実在する。

 

「生命」とか「ニーズ」とか「役割」は、人間にとって「物体でもなければ精神でもない」(吉川氏)のではない。それは音声・文字による表現態という物体であり、かつ概念、意味という精神である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の哲学 世界はトランスする | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) | - | - |
ペアと言えば、

概念は、どんな場合も

直観(時間と空間)と連接していなければ

意味がない、とは

哲学者・カントの大発見でした。
| 吹雪 | 2018/12/12 3:20 PM |









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