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明治以前、新元号はどのように決められたか 幕末廷臣の証言

下橋敬長(しもはし・ゆきおさ)述『幕末の宮廷』(平凡社東洋文庫、1979年)

 

下橋氏は、1844 年生まれの中堅廷臣で、本書は孝明天皇在位中(1846-1866)のころの朝廷の実情を、大正年間に入ってから述べた筆記録。

 

80歳近くになってからの口述だが、内容は詳細で、残存する文書も参照しており、天皇の食事や朝廷の儀式など、貴重な証言になっている。

 

そのなかに、幕末の改元がどのように行われたかについての説明がある。

 

当時は、凶事・慶事ごとに、改元がおこなわれた。その手順は、以下のようになる。

 

まず、改元の話がもちあがると、家格最上位の公家たとえば近衛家に公卿クラスが烏帽子狩衣(えぼしかりぎぬ)姿で集まり、「難陳(なんちん)」と呼ぶリハーサルをおこなう。リハーサルなので、笏(しゃく)のかわりに扇をもち、それぞれの席に陣取ってセリフを練習する。

 

新元号の候補は十くらいあり、各家が候補の字をそれぞれに褒めたりけなしたりする。

 

 

「汝申さるるといえども、○の字はこれこれに障(さわ)りあり。よって然(しか)るべからず」

 

「汝申さるるといえども、○の字はこれこれにて宜(よろ)し、誠に然るべし」

 

 

それぞれ一字ずつ吟味を述べると、最後に最上位の家の者が、

 

「汝申さるるといえども、文久然るべきや」

 

などと結論をとってお辞儀をする。

 

こうしてリハーサルしたあと、御所内で本番をむかえる。本番では、上位の家の者がお辞儀したあと奥にすすみ、天皇に結論を伝える。

 

「明治」とか「大正」といったその後の元号は、幕末にすでに候補のなかにあったものだという。

 

じつは、以上の手続きは事前に幕府の裁定があったうえで行われる。

 

まず、朝廷でいくつか新元号の候補を書き、これが伝奏によって所司代、老中、将軍と伝えられ、幕府がひとつを選ぶ。すると今度は逆に、老中から所司代、伝奏を経て、関白に結論が伝えられる。上記のリハーサルと本番の儀式は、こうして新元号が内々に決まったあとで行われたのであった。124ー126頁

 

新元号は幕府が選んでいたのだ。だが、ここで注目したいのは、それでも表向きには、朝廷が新元号を決める形をとったという事実である。

 

元号は多くの文書に記され、この国の時間を概念づける。その元号を宣定する権威が、形式的とはいえ、幕末まで朝廷の手にあったことの意味は小さくない。

 

日本がインドや中国のように西洋列強の餌食にならなかったひとつの理由は、弱体化した幕府にかわって全国をまとめられる朝廷という権威が存在したことであった。一種の二重権威体制が、功を奏したのである。

 

幕府が倒れても、それに替わる朝廷という権威があったから、幕府のあとは朝廷に権力を集中させることで、日本は列強による食い荒らしを免れた。もし朝廷がなかったら、この国は求心力を失い、列強は各地の諸藩と結んだり部分的に略取したりして、中国のように利権を奪いあい、日本列島を蚕食したかもしれない。

 

たかが元号、されど元号である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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