ごきげんようチャンネル


あきらけき かがみにあへば すぎにしも いまゆくすゑの こともみえけり

         大鏡


<< 負の世界遺産 歴史を「知る義務」について | main | 「史的唯物論」という言葉は、過去の概念にしたほうがいい >>
音響は独自の非現実世界をつくる 仲道郁代さんの講演から

ピアニストの仲道郁代さんの講演を、最近ラジオで聞いた(NHK文化講演会)。

 

仲道さんは、かねがねベートーベンが弾きにくいと感じていたが、作曲家の故諸井誠氏の薫陶を得て開眼したという。

 

じつはベートーベンは、特定の短い音形(いわば部品)をもとに設計図を描き、ピアノソナタを構成するという技法を使っていた。そこをきちんと見抜いているかどうかで演奏がちがってくるのだと。

 

素人考えだが、短い音形を基礎にして長い全体を構築する技法は、フーガやシャコンヌにおけるバッハの技法、つまりバロックを引き継いだのだろう。そして形式美をもつところは古典派で、近代的個人の心情をテーマにするところはロマン派。

 

ベートーベンは、そういういろんな要素をもっている。そのため作品が重厚かつ多面的で、簡単には弾きこなせないということなのかもしれない。

 

ところでこの講演では、仲道さんがときどきピアノで実演してくれる。

 

たった二音からなる短い音形に聴き入っていると、音がつくる独自の世界を感じることができる。

 

音形が短いだけに、悲しみとか喜びとかいった人間的な感情だけでなく、理性や概念、さらにはもっと超越的なものまで示唆しているように思えてくる。

 

そして、いったん設定した音形は自力で奔放に展開していくので、ベートーベンはそれを強力に制御した。音形の潜在力を、作曲家が実力でコントロールしていくプロセス。それがひとつの曲になっているようにも思えるのである。演奏者と聴衆は、音形の自己発展と、ベートーベンの構成力のせめぎあいに身をゆだねていく。

 

音の世界は、それを着たり触ったり食べたりはできない、一種の非現実ではある。だが聴き入る人にとっては、実在する世界である。

 

マルクスは、商品は商品どうしで「商品語」をしゃべるのだと言った。

 

音は、音どうしで「音楽」を語るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の哲学 世界はトランスする | 21:18 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









http://soundsteps.jugem.jp/trackback/4671
#誰が書いてるの?
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>
-->
#新しい記事
#過去の記事
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
#著書/共著
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 高杉 忠明
#著書/共著
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人
敗北を抱きしめて 下 増補版―第二次大戦後の日本人 (JUGEMレビュー »)
ジョン ダワー, John W. Dower, 三浦 陽一, 田代 泰子, 高杉 忠明
#コメント
#トラックバック