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         大鏡


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日本敗戦 国体は護持されたか

立憲君主制には、「君主無答責の原則」といわれるものがある。

 

まず、事典の説明を聞こう。

 

「君主は、その行為について、だれに対しても政治上・法律上の責任を負わない、という原則。イギリスでは古くから『王は悪をなさず King can do no wrong. 』ということばによってこの原則が憲法上の慣習として認められてきた。したがって中世以来、イギリスにおいては、悪政に対する責任は大臣が負うものとされ、大臣に対する弾劾制度が発達した。こうして君主無答責の原則は、立憲君主制をとる国に共通なものとなった。」(ニッポニカ)

 

この原則によれば、主権をもつ君主は、みずからの行為について責任を負わない。その理由を、ホッブズはこう説明している。

 

「主権者はみずからが制定した法、言い換えるなら国家が制定した法には服従しない。なぜか。...主権者は...自分を凝らす権力を戴くことになる[からである]。これはすなわち新たな主権者[第二の主権者]が置かれるということである。...同じ論理のもとで、第三の主権者が置かれる。第二の主権者を懲らす必要があるからだ。こうしたことが際限なく繰り返され、ついには国家の混乱と解体が起こるのである」(ホッブズ(角田安正訳)『リヴァイアサン 2』光文社古典新訳文庫、2018年2月、271-272頁)

 

敗戦当時の支配者たちが「国体護持」つまり天皇の戦争責任の回避を最重要と考えた背後には、こういった「国家の解体」への恐怖があったのかもしれない。

 

だが、ホッブズのいう"主権者を懲らすことによる国家の解体"は、ロジック上の仮想である。

 

じっさいには、誰もが納得できる者が新たな主権者になるなら、「混乱と解体」はそこでストップする。究極的には、国民が主権者の地位につけば、事はおさまるのである。事実、近代にはロシア、ドイツ、中国など多くの国家が君主制を廃して共和制になったが、それによる国家の解体はなかった。

 

他方、ホッブズは先に引用した部分の前段で、主権者はつねに「自然法」に従わねばならないと述べている。

 

「『主権者は公民法に従わなければならない』。もしこれが、いずれの主権者も自然法に従わなければならないというのであれば真実である。なぜなら自然法は神の法であり、いかなる人間もいかなる国家も、それを破棄することはできないからである。」(同上書、271頁)

 

現代において「自然法」に近いのは、戦争を開始し、戦争を指導する権限をもっていた君主の敗戦責任、内外の民を殺傷し殺傷させ、財産を破壊したことについての、国家の道徳的倫理的責任であろう。つまり、戦争をしかけ敗北した君主と国家の、内外の民にたいする道義的・物質的責任は「自然法」であり、どんな理屈によっても免れることはできない。

 

敗戦日本の場合、天皇家の存続という形式とひきかえに、新憲法によって天皇は主権を国民に明示的に譲り渡した。君主無答責の原則(「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」大日本帝国憲法第三条)を盾にしても、天皇と日本国家は政治的・道義的責任まで免れることはできなかったのである。

 

日本国家は、天皇という制度を存続させることで君主無答責の外観を維持しつつ、主権者を国民へと変更することによって、実質的に君主という地位をして「答責」させた。ただ、同じ人物が天皇の地位にとどまったため、天皇の戦争責任問題は新憲法の発効後も長く尾を引くことになった。

 

そして、旧国家による内外の民にたいする暴力と略奪という責任は、新たな主権者たる日本国民が引き継ぐことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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