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         大鏡


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三浦つとむに欠けていたもの 道半ばだった『資本論』の言語への適用

言語学の三浦つとむ(1911-1989)の功績のひとつは、「自己分裂」という人の心の根本機構を、ずばり指摘したことにあった(三浦つとむ『日本語とはどういう言語か』講談社学術文庫)。

 

三浦つとむの影響を受けて「言語過程説」を名のった人たちもいた。しかし自己分裂の論理を受け継いだ人はいないようである。言語過程説の鋭い論客であった英語学の宮下慎二(1947-1982)でさえ、自己分裂の論理を活用しなかった。

 

その原因はなにか。

 

「自己分裂」は、日常的な心的事実として誰もが思い当たるものの、この一見奇矯なロジックを、三浦つとむが言語学の基礎としてきちんと根拠づけなかったからであろう。

 

三浦つとむが自覚していたかどうかはわからないが、じつは自己分裂の論理は、労働力の発揮が労働であるというマルクスの論理を、言語に応用したものである。

 

労働者の労働力の発揮たる労働が人間社会の基礎であるのと同様に、自己の認識力の発揮たる認識が、人間の思考の実体をなす。

 

言語のような観念活動の要点は、

 

<社会の成員は認識力を分有しており、この認識力によって人は物理的制約を超え、概念を規範としてみずからの意識を認識し、その認識を物質的に表現しあう(自己分裂)。だから人間は社会をつくれる>

 

ということである。

 

このように、労働と認識が同じロジックを共有していることを指摘すれば、自己分裂はきちんと根拠づけることができたのである。

 

もうひとつ、三浦つとむの言語学に欠けていたことがある。

 

それは、言語という表現体がどのように概念を伝え、それがなぜ意味となるかについて、まとまった説明をしなかったことである。<表現→概念→意味>についての三浦つとむの説明は、論壇への対応に忙しかったせいか、散漫で舌足らずに終わった。

 

これも、<労働の生産物たる商品が、価値を規範とする人間の交換行為によって他の商品や貨幣と等置され、このプロセスによって価値が表現される><商品は人間によって交換されたあと、使用価値を発揮する局面に入る>という『資本論』のロジックを応用すれば、<表現態が、概念を規範とする聞き手の認識力によって聞き手の認識と等置され、そのプロセスによって概念が伝達される><表現は聞き手の認識と等置されたあと、意味を発揮する局面に入る>というロジックが見えてきたはずである。

 

三浦つとむは、『資本論』の論理を言語学に応用できた、唯一の言語学者であったと思われる。

 

言語過程説が衰退した原因は、三浦つとむがマルクスの論理をとりいれようとしたからではない。逆に、言語の原理をマルクスによってきちんと根拠づけて展開しなかったことが、言語過程説の衰退を招いたのである。

 

言語のような心的現象をあつかうには、堅固な論理を基礎にしなければならない。三浦つとむが始めた試みは、終わったのではなく、これから本格化すべきものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の文法 トランス・グラマー | 00:00 | comments(2) | trackbacks(0) | - | - |
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