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「影をなくした男」考 影は超越のシンボル
シャミッソー(池内紀訳)『影をなくした男』(岩波文庫、原作1814年)


自己論の参考になるかも…と思って読んでみた。

もしも人間に影がなかったら、この世のものではない。

この作品は、主人公が影を売ってしまったことがいろいろな不幸を呼ぶのだが、その事情について説明不足の感じがあって、私は楽しめなかった。


作者のシャミッソーは、フランスの貴族の家に生まれたが、フランス革命で一家は特権を剥奪され、15歳からドイツに住んで、「フランス系ドイツ人」ともいうべき、祖国のはっきりしない人物になったという。そこで、この作品の「影」とは、彼が亡くした祖国のことだろうと推測した人が多かったらしい。(訳者解説、146頁)

なるほど祖国は、なくしてはじめて意味の大きさがわかる。そこが影に似ている。



さて、巻末にある訳者の回想によると、子どものころ影踏みごっこをしていたら、ふと、影のほうが主人公で、自分はその従属物のような気がしたという。



「自分が黒い小鬼の指図のままに身ぶり手ぶりをしているような気がして、おもわず足をすくませた」137頁




私には、訳者のこの言葉がいちばん面白かった。



自分の従属物であるはずの「影」が自立し、自分を支配しはじめる。

精神の不安定は、なべてこうして起こる。

この作品は、そういうテーマの展開だと思えばいいのだろう。




自分の影は、自分につきものである。自分が影(もう一人の自分)をつくり、これによってわれわれは時空を超える。



最後に、この作品に附属している詩の一節を引いておく。


「影とはなにか?

どうして世間は意地悪く

これほど影を尊ぶのか

ぼくがこの世に生をうけて以来

53年の歳月が流れたが

その間ずっと影が命だったでもいうのだろうか

命が影として消え失せるのに」134頁













 
| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 言語の資本論を書く | 17:54 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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