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ソシュールの「恣意性」 徹底批判 その3
② 言語の系統発生と個体発生の混同と、語の相対的根拠性の軽視の危険


言語がある社会において生成する過程(種が系統発生するプロセス)においては、ある概念がどの音声で表現されるかは、はじめ「恣意的」なところがある(擬声語とても、恣意性の余地はある)。

たとえばイヌを「いぬ」というか「あぬ」というかは、社会のなかで人々が表現をやりとりするなかで確定されることで、あらかじめ誰かが決めるというものではない。その意味で、このプロセスは「恣意的」といえなくもない。


しかし、ある言語社会で個人が言語を習得する過程(個体発生のプロセス)においては、ある概念をどの音声で表現するかは、恣意的どころか義務的に決定されている。日本語の世界では、イヌは「いぬ」と言わなければ通用しないことは誰でも知っている。

このことはソシュールも気づいていて、「個人が自由に選択できるという意味で恣意的なのではありません。…社会全体をもってしても、記号を変更することはできないでしょう」と、いったん確立された記号が義務的になることを指摘している。97頁




ソシュールの「恣意性」を受けとめるとき、危険なのは、系統発生のプロセスで認められる「恣意性」を誇張し、語の成立全般について「恣意性」をイメージする可能性である。

ソシュールも認めているように、いったん「いぬ」という表現が確立すれば、それを根拠にして成立する「いぬ小屋」といった多数の関連語は、もはや完全に恣意的であるとはいえない。


※類似のことは漢字にもいえる。たとえば「草」は、意味を表す草かんむりに、音を表す早を付加して作った文字(形声)であるが、草かんむりや早がもつ形態や音声は、はじめ恣意的(偶然)なところがあったかもしれないが、両者を借りて成立させた「草」は「いぬ小屋」に似て、もはや完全に恣意的とは言えない。

われわれは、「恣意性」を単純に受け入れるのではなく、言語における系統発生と個体発生のちがいや、語の成立における相対的な根拠性に注意すべきである。



ソシュール自身、語には「完全に無根拠なものと、相対的に根拠があるもの」があり、たとえば「英語ではドイツ語に比べると、無根拠なものがかなりの量あります」などと述べている。114−115頁。

ところが、その一方でソシュールは、


「言語においてシニフィアン[聴覚的なもの]とシニフィエ[概念的なもの]の結合は、完全に恣意的です。」118頁


と断言してもいるのである。


言語の「恣意性」を強調することについて、ソシュールは自制的であろうと努力した。ところが彼は、概念と音声の結合の一般的ロジック、すなわち言語規範の由来を分析する方法をもたなかった。

そのため、けっきょく彼は、概念と音声の結合は「完全に恣意的」だという、誇張された観念に屈服することになる。












(つづく)









 
| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 言語の資本論を書く | 07:00 | comments(2) | trackbacks(0) | - | - |
コメントありがとうございます。たしかに、象形文字や擬声語のように、形態に根拠がある場合が考えられます。本文のほう、少し表現を訂正いたしました。
| みうら | 2013/11/22 7:25 PM |
言語の歴史的発展と象形文字について

 ”草かんむりや早の形態や音声ははじめ「恣意的」”というのは言い過ぎで、漢字は元々象形文字で、文字言語も単なる絵から移行したものと考えられます。従って形態には根拠があり、そこから六書の法により造字、運用されたものです。
 表音文字の世界に生まれ、生きたソシュール等の発想には、この点でも限界があります。言語道具説が文字従属説へと進んでいく論理が、三浦『言語過程説の展開』の「第三章 六 音声言語と文字言語の関係」で説かれています。■
| YAGURUMA"剣之助" | 2013/11/22 10:37 AM |









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