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ソシュールと中国語

ちょっと上海に行ってきた。

数日の観光だったけれど、中国語を少し話してみて思ったことが。

以前から中国語の「無気音」と「有気音」というのがよくわからなかった。

たとえば「現在」はわれわれの耳には

「シェンァィ」

のように聞こえるけれど、ある日本人の中国語教師は

「シェンィ」

のように言っており、それで完全に通じているので、不思議な感じがしたものだ。

おそらく、日本人が「ツァィ」というと有気音化しやすいので、この教師は「ザィ」と言う癖がついたのだろう。つまり、この教師は日本語の濁音/清音の区別(ズかツか)を、中国語の無気音/有気音(ピンインの[z]か[c]か)の区別に利用して、うまく処理しているらしかった。

しかし、日本語の<濁音/清音>と中国語の<無気音/有気音>がぴったり対応するわけがない。なのに、なぜ完全に通じるのだろうか。

これはピンインの[z]という無気音の正体はなにかという問題である。

そこでもう一度、むかし使った中国語の入門書を見てみた。すると次のように書いてある。

「b,d,g,j,zh,zは無気音と呼ばれ、じつは濁音ではありません(声帯をふるわせない)。破裂と同時に母音の発音に移ります。

p,t,k,q,ch,cは有気音と呼ばれ、無気音のそれそれに対応するもので、破裂後、母音との間に息だけが出る瞬間をとります。」

(榎本英雄『まるごと覚えよう NHKスタンダード40 中国語』NHK出版、2000年、15頁)

後半の有気音の説明は英語音声学から見てもよくわかる。有気音とは、子音と母音のあいだに[h]音が入るものだということである。これはたとえばbed とpetの違いに現れる。

わかりにくいのは前半のほうで、中国語の無気音は濁音ではなくて「破裂と同時に母音の発音に移る」という部分である。

これはおそらく、子音に[h]音を入れないようにすれば、中国語では無気音と認識されるということなのだろう。無気音は濁音と同じではないが、「シェンイ」でも[h]音は入らないから無気音として通じるのだ。

しかし、[h]音を入れたり入れなかったりする身体要領は案外とむずかしいし、理論的にもそれにどういう意味があるのかはわかりにくい。

そこで思い出したのがソシュールの指摘である。

「すべての音素は、内破と外破のかたちをとることができます。

[たとえば]単にpというだけでは、何か抽象的なものを手にしているだけです。

<p内破>と<p外破>を[それぞれ違う記号をつけて別々に]扱えば、具体的なものを手にできます。

各音について閉じた音と開いた音の記号が必要なのです。

音節の単位は根本的に内破と外破に依存するのです。」

(ソシュール『一般言語学講義』前掲訳書、79−81頁より要約。同趣旨の部分は小林秀夫訳では75頁以下。)

この部分を思い出して、ああ、そうか!と思った。

中国語の無気音は内破音で、有気音は外破音なのではないか?

英語では、母音が外破系、子音が内破系だが、子音のなかでも内破的と外破的の二種類があり、内破的な子音は[ng]、外破的な子音は[h]を基盤音として練習すると効果的だ。ひょっとすると中国語の子音も無気音は[ng]、有気音は[h]をもとに練習するといいのかもしれない。

これはまだ仮説にすぎないが、しばらくそのつもりで中国語を練習してみようと思う。

ついでながら、上記の榎本氏の中国語教科書には、とても共感できることが書いてある。

「中国の街には、自信のない中国語でも思わず口に出してみたくなる、そんな気安さがあふれています。そしてそんなひと言が通じたときのうれしさが、旅を何倍にも楽しくしてくれるのです。いつしかあなたは、この街にすっかり溶け込んでいる自分を見つけ出すことでしょう。中国への旅は、気取りのない普段着の旅なのです。」(榎本前掲書、2頁)

気安さ、普段着の良さは、今回私も感じた。

どこか敷居の高い英語よりも、気安く口にできる中国語のほうが、確実に早くうまくなるだろうとさえ思った。

そして榎本氏は、次のようにクギをさしている。

「中国語は、やややこしい文法の約束事はあまりなく、言葉のしくみは簡単です。発音のしくみさえ体にしみこめば、あとはなだらかな坂道なので、だれにでもやすやすと登っていける学びやすい言葉です。特に発音が大事です。」(同前書、2頁)

そしてその発音を大事にするには、ピンイン(発音記号)が役立つ。

「漢字はもともと表音文字ではありませんので、学習しないかぎり、読み方がわかりません。そこで登場したのが『ピンイン』です。」(同前書、10頁)

これはつづりと発音の関係が複雑な英語にもいえる。発音記号なしに英語はできない。

まずは発音。それが外国語の第一歩だ。











| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 英語の発音 | 17:20 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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