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         大鏡


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ナポレオンの正義は、夢想・残虐・知識欲の産物 暴力が英雄を産んだ時代

ナポレオン(1769-1821)の夢想性と残虐性と知識欲。

ナポレオンという人格には、この三つが同居していた。

 

 


〔漢枩

ナポレオンはフランス国内での自分の地位を確立するため、フランスを敵視するイギリスとインドのつながりを断つため、そしてアレクサンダー大王の事跡に憧れて、エジプト遠征を思いついたと言われている。

どれひとつとっても実現の確実性は小さく、約4万人の軍隊をひきつれて海を渡り、エジプトを侵略するに十分な理由とは思えない。

ところが、それを実行してしまう。

 

 


∋諜埓

そうした彼の夢想がもたらしたものは、軍隊という暴力専門組織の大移動であり、容赦のない非人道的行為であった。

イタリア遠征ではゲリラ戦を封殺するために村の男全員を銃殺。エジプト遠征では飢えや渇きから自殺者が続出。カイロの民衆蜂起を残虐に弾圧。パレスチナでは疫病に苦しむ兵隊を楽にするため毒を盛る。モスクワ遠征では、飢えのあまり自軍の倒れた馬を兵士がむさぼり食った。マドリッドでは反乱した市民400人以上を銃殺。この事件は、ゴヤの絵「1808年5月3日」で知られる。(以上、ダニエル・メイヤーソン(藤井留美訳)『ナポレオンと言語学者』(河出書房新社、2005年)33、155、240頁による)

「敵の屍(しかばね)はつねにかぐわしい」「ちぎれたミミズは鋤(すき)を恨まない」(ナポレオン) (メイヤーソン同上書、34、157頁)

 

 

 


C亮瑛

ナポレオンは、正確な知識を希求するのだといって、こうした侵略を正当化した。

エジプト遠征には176名もの学者をひきつれ、かの地を精査して膨大な記録を残させた。フランス軍の行くところ、人類の知識が確実に拡大するというわけだ。

ナポレオン自身、旺盛な知識欲の持ち主で、「ナイルを澄んだ水にできるか?」「ヒエログリフに仮定法はあるか?」といった疑問を突然抱いた。それに即座に答えさせるために学者を周囲においた。(メイヤーソン、34、157、224頁)

 

 


 

 

 

ナポレオン法典にみられるように、ナポレオンは、内政的には正義を信じて実行するところもあった。


他方でナポレオンの外政は、とほうもない夢想と残虐と知識欲に裏づけられていた。

 

このように、内と外で大胆な行動が可能だったのは、彼がフランス国家の軍事力を行使できる立場にあったからである。

 

19世紀は近代帝国主義が発展した時代。人間は近代的な組織的暴力の力に気づき、それを活用して、内に自由、外に征服という帝国主義の時代を開いた。そのさきがけが、ナポレオンであった。

そして、近代帝国主義をナポレオンという個人に率いらせた時期は、そう長くはなかった(ナポレオンが皇帝だったのは、1804年から1814年。その後1815年、再び皇帝として返り咲くが、三ヶ月で退位)。

 

ナポレオンを大西洋の孤島セントヘレナに流したあとは、ナポレオンから帝国主義を習い覚えた西洋の国家権力たちが世界に覇を競った。

 

ナポレオンのあと、近代国家の開明性と醜い侵略の時代が、本格的にはじまったのである。

 

 

 

 





 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 人類史どれどれ虫眼鏡 | 05:39 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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