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         大鏡


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ルソー 悪を知るがゆえに善を根拠づけた意志 『人間不平等起原論』から

ルソー(1712−1778)の『人間不平等起原論』(1755年)に、こういう部分がある。

 


「ある有名な著者は人生の善と悪とを計算し、悪のほうが善をはるかに超過していること、そして人生は人間にとってかなり悪い贈り物であることを発見した。」(平岡昇編『世界の名著30 ルソー』中央公論社、1966年、195頁。太字は引用者)

 


以下数ページにわたって、ルソーは暗い情念を吐露する。

 


「裕福な人なら、貪欲な相続人や子どもたちから、ひそかにその死を願われないことはおそらくあるまい。悪意ある債務者がすべての書類が燃えるのを見たいと願わないようなことはありえない。隣の民族の災害を喜ばない民族はひとつもないだろう。

それよりもさらに危険なことは、公共の災害が多数の個人の期待や希望になるということである。ある者は病気を、他の者は死を、他の者は戦争を、他の者は飢饉を望んでいる。

 

わたしは豊年の見込みをみて悲しみ泣いている恐ろしい人たちを見たことがある。多くの人々の生命や財産を失わせたロンドンの大火災で、おそらく一万人以上の人は財産を作ったのである。」196頁。

 


そして結論。

 


どんなに正当な利益よりも、不当に作れる利益のほうが必ず上回る。そして隣人に加えられた損害は常に、その人に奉仕するよりも金になるものだ。

それゆえもはや、確実に罰せられない手段を見つけることだけが問題になる。

すなわち第一に必要なものを、次に余計なものを供給することが問題になる。そののちには享楽が、そして巨大な富、それから家来、それから奴隷がやってくる。

さらに奇妙なことに、欲望が不自然で差し迫ったものでなくなるにつれて情念はますます増し、さらに悪いことには、その情念を満足させる力も増大する。」196−197頁。

 

 

暗いが、鋭い観察である。


次の言葉は、いまの日本社会を直接思い出させる。

 

 


「食物の途方もない混合、有害な調味料、腐った食料品、変造された薬、それらを売る人びとの詐欺行為、それらを調製する容器の毒…

その権威のゆえに公然と子どもの人間性を侮辱する父親、似合いでないために互いを苦しめている夫婦、両親の強欲の犠牲になって悪徳にふけり、あるいは涙のなかに悲しい日々を過ごし、心では退けているのに黄金のみが作り上げた解くことのできぬ束縛のなかで嘆き悲しむ若者。

一生を絶望のうちに過ごす前に、自分の勇気によって自分の生命を断つ女性たちは、ときに幸福ではないか。」198−199頁。
 

 

 

私は、これ以上に暗い絶望を語った言葉を知らない。

しかし、ルソーは絶望だけを語ったのではない。

 

 


「人間は悪である。しかしながら人間は本来善良であり、わたしはそれを証明したと思っている。」195頁。

 

 


これがルソーの意図であった。

人間の暗い側面を知るがゆえに、ルソーは人間の「善良さ」をなんとかして基礎づけようとした。

 

すぐれた社会論の真髄は、人間に絶望するからこそ、なんとしても希望をしぼりだそうとする強烈な意志である。



 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

| 三浦 陽一 (みうら・よういち) | 希望の歴史 トランス・ヒストリー | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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